守りの経営者はIT技術者を必要としない

@ITにて面白い記事が載っていた。

日本のIT技術者が尊敬されなくなってきた――IPAイベントから − @IT

面白い記事だ。
だけど1つだけ大事な点が抜けているように感じた。
金だ。「きん」じゃない。「かね」だ。Moneyだ。


なぜ技術者が尊敬されなくなったのか。
技術者の評価軸が技術でなく、金になったからだ。
営利的な活動を主とする企業において、金を生まない技術者はお荷物でしかない。
しかし技術を金に換算するのは難しく、企業の経営が傾けば直接的、かつ短期的に金を生む社員が一番偉いのだ。当たり前だ。給料はどこから出ている。


IT技術者はホワイトカラーということになっている。
ホワイトカラーということになっているので成果主義の上で裁量制で働く。
成果とは何か?
当然、金だ。


現状で技術者の成果は部門の儲けにいかに貢献したかで測られる。
すると営業で成功するか、プロジェクトを予算内で成功させるか、失敗プロジェクトを立ち直すかなどで評価される。もちろん営業成績が一番わかりやすく評価されやすい。逆に火消しは評価されにくい。特に技術的な貢献は評価の対象になりにくい。金に換算するのが難しいからだ。


技術的貢献は特許が一番評価される。とりあえずなんでもいいから特許をとることが大事だ。トイレの並び方やブランコの乗り方も特許になる時代である。つぎに論文を書くことは良い。また社内向けの技術文書も評価対照になりうる。しかし論文や技術文書は社内のエライ人の好みに合わせなければならない。例えば現在であればSOAWebサービスSaaSなどをタイトルに入れると良いだろう。


しかしこのような特許や論文、技術文書の記述は通常の業務の範疇ではない。デスマーチなどに借り出されていては死ぬ目に遭っても評価されない。従って愚直に技術を追求するだけでは金にならない。実際は値千金な技術力であってもアピールできなければ金銭価値はない。例えば丸投げのSEの下で事細かにPGが働いてあげてもPGの給料は上がらないし、逆に成果はPMのものだ。この業界では失敗しか目立たず、成功は余程の成功でない限り評価されず、さらにある成功は次のノルマの引き上げを意味する。


このような業界ではリスクがことさら過大に評価される。
リスクは本来相対的な大きさで測られるものであり、有り無しで説明されるものではないのだが、リスクばかりが強調され、リスクを回避することが上に立つ者にとって最優先の仕事となる。例え下の生産性が低下しようと、余計な雑事が増えようと上の仕事が「失敗しないため」にはリスクは常に避けられなければならない。
これは人件費の観点からも正しい。上は高いが下は安いのだ。よほど下を使わない限り上の効率を追求することが全体のコスト低減に貢献する。


このため、業務はいよいよもって信じられない形を成す。
メソドロジーウォーターフォールしか有り得ない。
個々の工程ごとに、見積もりを出し、契約書を交わし、お金をもらい、WBSを書き、進捗を管理し、成果物を納品するのだ。


開発はコストの抑制が最も重要だ。
まず設計は実装から独立する。プラットフォームも実装言語も設計には影響を与えない。これならどんな○○なSEでも設計ができる。実装の効率を考えてはいけない。実装工程は運用まで含めた全工程の中で一番短く、かつPGは一番人件費が安いのだ。


PGは安さが最優先だ。入札で一番安い会社を採用する。
実装で一番大事なことは個々のプログラマの技術力が成果物を左右しないようにすることだ。優秀なプログラマが抜けたらメンテができないようでは困る。この業界で一番長いのは運用であり、保守だ。


プログラマの成果物を均質にするにはどうすれば良いのか?
それにはフレームワークで徹底的に押さえ込むのが一番だ。
先日もある方が書かれていたが、SEはPGを信用しない。自分で書くならオブジェクト指向で書きますけど優秀なPGを集めることはできないので手続き型で書かせます、だ。
△△なプログラマを大量に安く雇い、その上で成果物を仕上げさせるには一番▲▲な技術者に合わせた仕組みを採用すれば良い。


某社ではWebアプリを開発するときに以下の手順で行う。

  1. 画面遷移図を書く
  2. 画面にIDを振る
  3. 画面IDからクラスIDを自動的に決定し、遷移をXMLに転写する
  4. クラスIDのexecuteメソッドに画面ごとのフロチャートに従ってコーダーにプログラムを書かせる
  5. 完成

元記事に書かれているように、確かにこれはクリエィティブなお仕事には感じられないだろう。このような開発の単純化の下では技術力の地盤沈下という見えない資産の減少が進んでいるのだがそのような金額換算されないものは残念ながら省みられない。


さてご覧のように金が成果の評価軸な世界においては、上流工程のリスクを最小化することが優先され、下流の作業内容は単純労働化が進む。この過程の行き着く先は既に皆様経験されていらっしゃるとおり、国外へのアウトソースだ。
既にPGの仕事はインド、中国へ流れている。
仕事を単純労働に変換し、より安い労働力に移行するのは上流工程の評価のためには必然だということが理解できるだろう。


ここで間違っていけないのは現在のSEの仕事が安定だと考えてはいけないことだ。
仕事の単純化、定式化は最もコストの高い人件費を抑制するのに有効だ。
現実に今のSEの仕事のうち、極優秀な一部を除いて外国人で代替できるSEはいくらでも存在するだろう。当然、PGだけでなくSEもまたアウトソースの対象となる。
そこでRebalanceが働くのだ。
つい先日別の某社で1000人を超えるSEが首になった。その某社はインドでは大量に採用を続けている。コストの視点では高い社員を首にし、安い地域で再雇用することは全体のコスト抑制に大きく貢献する。しかしこの件は有名なブロガが憶測に基づく大量リストラ予告の記事を書いたために某有名サイトにて取り上げられ、某国中のGeekが恐れおののく事態となった。


この件は日本とて例外ではないだろう。
日本の企業は言葉の壁を取り上げ、日本だけがパラダイスでありうるような幻想を抱くことが多いが、私はそうは思わない。中国人を始めとする外国人の日本語は実に良くなっている。また日本人には外国人に対する不信感があるように感ずるが、経営効率の追求においてはそれは問題にならないことが既に他の業界にて証明されているからである。


そんなわけで現在、SI業界に限ると短期的に金を産む技術者でなければ尊敬はされないし、将来はないことを説明したつもりだったが、思いっきり酔っ払っているので何を書いているのだがわからなくなってきた。
技術者がどうするべきなのか、正直自分もよくわからない。若い人には英語をやること、論文を書くこと、どんな企業でも研究所と名の付く部署に入るかGoogleか若いベンチャーに行くといいよとしか今は言えない。あと大企業にいくのなら技術専門の子会社があることが多いのでそちらに行ったほうが良いよ、と。